こんにちは。ドローイングによる冷間ロール成形を得意とする宗和工業(そうわこうぎょう)の岸野です。
本日は冷間ロール成形で課題になることが多い、切断面のスプリングバックについて説明いたします。
以前、ベンダー曲げの部品しか使った事が無いというお客様とお取引を始めたときに、打ち合わせでスプリングバックの事を説明し、お客様からも『スプリングバックの事は知っているよ』と言って頂き、内容確認して製造に入り、いざ製品を作って確認して頂くとスプリングバックの部分が問題になった、という事がありました。よくよく確認すると、冷間ロール成形とベンダー曲げのスプリングバックは同じ名称でも異なった変形を表していて私がそのことを把握しておらず十分な説明が出来ていなかった事、お客様が『スプリングバック=ベンダー曲げで発生するスプリングバックのこと』と思って説明を聞き流していた事、が分かりました。金型を改造して問題は解決できましたが、こちらで実際のサンプルを持参するなどもっとわかりやすい説明をしていれば回避できた、悔やまれる出来事でした。
今回は、ロール成形とベンダー曲げのスプリングバックがどういうものか簡単に説明いたします。
冷間ロール成形のスプリングバック
冷間ロール成形では製品を切断すると、切断面が片側は閉じ、片側は広がるという現象が起きます。これをスプリングバックと呼んでいます。ロール成形独特の加工途中の板の変形過程が原因で発生するもので、どの部分を切断しても同じように変形が発生します。
スプリングバックは板がロールを通過する際に急激な変形をし、板の内部に残留応力が発生することが原因で発生します。
左図のロールに入る前(下側)では何も力が加わっていない状態ですが、ロールに当たり巻き込まれる時に、板を引き延ばす力が加わり(真ん中)、ロールを通過した後にもくわえられた力が板の内部に残っています(上側)。
成形した製品を切断すると板の内部に残っている力の影響で、切り口が開いたり(左図の下側)、切り口が閉じたり(左図の上側)します。板全体に力が残っているので、どこで切っても同じ現象が発生します。
これはベンダー曲げで製造するレール品にはない変形で、ベンダー曲げからロール成形品に変更を検討する時には、このスプリングバックが問題ないレベルでおさまるかしっかり確認することもポイントの一つになります。
通常は曲げの順番や曲げ量を管理してスプリングバックを減らしていますが、スプリングバックの閉じる性質を利用してレールの中に入る付属品を抜けにくくするといった利用がされることもあります。
ベンダー曲げのスプリングバック
これは曲げた部分がバネの様に少し元に戻る現象のことで、全長にわたって発生します。ベンダー曲げでのスプリングバックは、力を加えたとき板の内部で、曲げの内側には圧縮の力が、曲げの外側には引っ張りの力が働き、力を除くと圧縮と引っ張りの反力でバネの様に板が少し元に戻る現象のことです。あらかじめこの戻り量を計算して深めに曲げたりと言った対策が取られます。